赤い横綱・還暦土俵入り
「還暦土俵入り」とは、現役時代に横綱だった元力士が、還暦を迎えた際、長寿祝いとして行われる土俵入りのことです。
還暦を迎えた時点で、日本相撲協会に「親方として在籍」していれば国技館で行われ、退職していれば別の場所で行います。還暦を祝い、本来は白い横綱を締めて行う土俵入りを、この時だけは還暦の赤にちなんで「赤い横綱」で行う事から、この綱を「赤綱」と呼ぶ事もあります。
還暦祝いの贈り物・プレゼントのアイディア
還暦のお祝いは、人生においてもさまざまな経験を重ねて来られたことに敬意を表しましょう。
還暦のお祝いを迎える方の健康や活躍を祈ると共に、心を込めた贈り物、プレゼントをしたいものです。還暦といっても60歳はまだまだ若くて元気です。「年配の方だから…」といった考えではなく、その方の趣味や好きなものを考えて選ぶと喜ばれるかもしれませんね。
- 健康にちなんだプレゼント
- 赤色にちなんだ贈り物
- 60歳でなので「60」にちなんだギフト
- 趣味に役立つプレゼント
古典芸能の中に見つける「還暦」
還暦以上が舞う能とは
室町時代に始まり、600年以上の年月を脈々と受け継がれてきた舞台芸術で、日本の伝統芸能の一角を成す能楽。囃子(はやし)や地謡と呼ばれる、これまた日本古来の独特の音楽に合わせ、役者が舞台で舞うというものですが、同じ伝統芸能の歌舞伎とは違って、動作や感情表現が最小限に抑えられている点が大きな特徴です。
この能楽の中に、還暦を過ぎた役者でなければ演じることが許されない演目があります。正確にいえば、ある演目の中の役柄の一つに、「還暦以上の役者が舞う」ことを定められている役柄があるのです。その演目の名前は「鷺(さぎ)」。
そのストーリーはというと…。
『ある日、時の帝が夕涼みに出かけた先で一羽の白サギを見つけます。その美しさに心ひかれた帝は家来に白鷺を捕えさせようとしますが、白サギはそれを察して飛び立とうとします。そこで家来が帝の命令であることを白サギに告げると、なんと不思議に白サギが舞い降りてきました。それを喜んだ帝は家来と白サギの双方に「五位」の位を授けます。それが「ゴイサギ」の名前のいわれとなりました。そして新しい名前をもらった白サギ改めゴイサギは帝に許され、再び天高くへと舞い上がっていきました。』
還暦ならではの円熟で舞う主役
ちょっと不思議なストーリーですが、昔の人々にとってはなかなかの感動物語だったのかもしれませんね。この話に登場する白サギが何を隠そう、還暦以上という年齢制限のある役柄。
ただ、例外的に少年ならば演じても良かったようなのですが…「二十歳で成人」という現代社会と違い、この作品が生まれた当時の成人(=元服)は12~16歳という年齢。当然その頃に“少年”ということになると、それに該当する期間はごくわずか。しかも、白サギはこの「鷺」という演目においては堂々たる主役!当然、余りに幼い役者ではとても舞うことはできません。
もちろん昔は日本人の平均寿命も短かったため、還暦以上の年齢の能役者も決して多数いたわけではないでしょうが、その経験や磨いてきた技術を考えれば、子役が演じるよりもはるかに味わい深く優雅な鷺を舞うことができたことでしょう。もしかすると、そのへんまでも計算して昔の人はこの役に年齢制限を設けたのかもしれません。そう考えると、還暦という年齢はやはり人間としての円熟の年齢と考えてよさそうですね。
還暦の別名
「十」×6+「一」で…還暦の別名
「華甲(かこう)」という言葉をご存じですか?実はこれは「還暦」と同じ意味。60歳という年齢を指していう言葉です。
暦が一回りすることから「還暦」と呼ぶことは、「なぜ還暦を祝う」の項でご紹介していますが、十干十二支の暦をもととする点では「本卦帰り(『還り』『返り』とも)」という呼び方もあります。これは還暦と同様、暦が一回りして本(もと)の「卦」の位置に戻ってきたということをそのまま表す言葉です。
それに対して「華甲」の意味はちょっと違います。その成りたちは77歳の「喜寿」や88歳の「米寿」とほぼ同じです。そのカギは「華」の字にあります。
少しわかりにくいのですが…この「華」を大きくしてじっと見てください。そして徐々に分解していくと、なんと6つの「十」と一つの「一」になるのです。つまり61。でも、61では還暦ではないのでは?もちろんそんな疑問も起きることでしょうが、数え年で考えるのが普通だったその昔。数え年で61歳ということは、満年齢に直せば60歳。すなわち還暦ということになるのです。
もっとも最近は数え年で表現することも少なく、どうもピンとこないという人もいるでしょう。その場合は、少し変則的で割り切った考え方にはなるものの、「61」が「一つ」という考え方をすれば「華甲」の言葉を覚えやすいかもしれませんね。
なお、「甲」は「きのえ」で十干の一番目。十干十二支が一回りして最初の「甲子(きのえね)」に帰ったことを表すもので、その点では還暦や本卦帰りと同じく暦に基づいています。
イメージの違いで使い方の違い
「華甲」という呼び方については、「還暦」とは違った面白い使い方があります。それは、「華甲一年」「華甲二年」という表現。満年齢61歳であれば「華甲一年」というわけですね。
残されている古い文章例では、夏目漱石に師事し、後にエッセーの「阿房列車」をはじめとする軽妙な文章で人気作家となった内田百閒が自らの作品の中で「華甲一年」、「華甲三年」などと用いています。
それに対し「還暦三年」などという言い回しや表現はどうも見かけないようです。その理由ははっきりしませんが、それぞれの言葉に使われる漢字の意味合いにポイントがありそうです。というのも「還暦」は“暦が一回り”の意味ですので、それを意味のまま書けば「還暦一年」は“一回り一年”ということになってしまいます。これでは分かるような分からないような…。
それに対して単純に数えの61歳=満年齢60歳を指している華甲ならば“60歳1年”ということになり、還暦よりは意味合いがハッキリしてきます。そうした意味で「華甲」は使いやすい言葉かもしれませんね。
なお「還暦祝い」は、その意味があまりに明快でわかりやすいため、あえて「華甲祝い」を使うという話も。確かにそれほど有名ではない表現の「華甲」という言葉なら年齢もバレ難いし、文字の意味合いもなんだか渋いイメージの「還暦」という言葉に比べて華やかな感じです。同じ年齢なのに若々しいイメージに受け取られそうではありますね。
特別史跡の中にある「華甲」とは
岡山県にある「閑谷(しずたに)学校」はその一連の建築物の大半が国の重要文化財に指定されている特別史跡です。
この閑谷学校内の建築物の一つの名前が「華甲斎(かこうさい)」といいます。もちろんこれは還暦に同じ60歳を指す「華甲」で、かつては閉鎖されていたこの閑谷学校の再建に力を尽くした西薇山先生の還暦=華甲の際に、教え子たちが建設して師に贈ったものです。
閑谷学校の落ち着いた佇まいが観光地としてなかなかの魅力があり、岡山観光の人気スポットでもあります。華甲祝いの記念旅行などに訪れてみるのも良いかもしれませんね。